法話の窓

これまでと、これからと

 新年あけましておめでとうございます。お正月を迎え、あらためてこの一年をかえりみれば、あっという間の出来事に感じられ、時の流れの速さに慄くばかりです。ただ一方で実に忙しくまた楽しい、充実した一年であったからこその速さとも感じます。

  門松やおもへば一夜三十年

 江戸時代の俳人・松尾桃青三十四歳の句です。新たな年を迎え振り返ってみれば、一年どころか三十年、物心ついてからこれまでの人生はまるで一夜の夢のようだ……。この頃、桃青は一人前の立派な俳諧師として独り立ちの目途がつきました。故郷を離れ、句で身を立てようと夢中で駆けた三十年、その思いをついに叶えた自分を誇らしく思う気持ちが表われているようです。
 「三十年」というのは一つの区切り、世代の変わり目です。言うなればその人を表わす期間になるでしょうか。何者かになろうと願うのならば、人生をかけて挑まなければなりません。

 苦労のかいあって目的に達したといえど、禅は更なる向上を求めます。「更に参ぜよ三十年」。もっともっと貴方は素晴らしいのだ、と。
 俳諧のお師匠さんとなった桃青はそこで止まりませんでした。研鑽に研鑽を重ね、自分自身の俳諧を求めて各地を旅して巡ります。五十一歳の生涯を終えるその瞬間までより良い句を追求し、そして歴史に名を遺す無二の人となりました。それが松尾桃青、後の俳聖・松尾芭蕉です。
 自分は芭蕉のような特別な人ではない、と思う人もいるかもしれません。しかし誰もが決して二人とはいない人であり、人生という道を歩み続けています。その道を歩み切る、生き尽すことを望まれているのです。
 
 平成という三十年が終わりました。自然災害など幾つもの困難を乗り越えて日々を重ね、今日こうして令和初のお正月を迎えられました。誰もが振り返ってみれば一夜の夢のようだと感じるのではないでしょうか。そしてまた新しい日々が始まります。これまでと、これからとをよくよく見つめて、まずまた三十年、皆様と共に一日一日を積み重ねていけることを願います。
これまでと、これからと

福田宗伸

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