法話の窓

未来利他

未来利他

 謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
 また、新型コロナウイルス感染症に罹患された方々に心よりお見舞い申し上げますと共に、感染拡大防止にご尽力されている医療・介護従事者の皆様に深く感謝申し上げます。

 昨年は私たちの生活が大きく変わりました。そうした中、どんなに絶望的な状況でも、呼吸を調え、自分を見つめ、その時できる事を探し、仲間と共に活路を切り開いていく物語が空前のブームとなりました。

 私の住む宮城県松島町は、日本三景の一つに数えられる景勝地です。とりわけ臨済宗妙心寺派である国宝・瑞巌寺は観光の中心であるとともに、その存在は多くの町民にとって心の支えとなっています。題名に挙げた「未来利他」は、瑞巌寺住職・起雲軒老大師が、「コロナ禍を生きる町民に、心の拠り所となる指針をお示し頂きたい」という松島町の依頼に応える形で揮毫された言葉です。

 今この瞬間の積み重ねが「未来」を築きます。「利他」とは他人のしあわせを意味する仏教語です。会社員時代、「Your smile is our job.(あなたの笑顔は私たちの仕事)」という、ある会社の着信メッセージに感銘を受けたことがあります。反対にすると、「Our job is your smile.(私たちの仕事はあなたの笑顔)」です。意味は同じでも、その印象は大きく異なります。「利他」の反対は「自利」(自分のしあわせ)です。自分と他人のしあわせが同じであれば理想的ですが、日常生活では相違していることの方が多いでしょう。
 きっと今、医療や介護の最前線に立たれている方々は、「あなたの笑顔が私たちの仕事」と「利他」の精神で献身して下さっていると思うのです。

 一方で、年末年始にかけて「GOTOトラベル」が全国一律停止となりました。松島町においても、個人旅行や家族旅行の方はもちろん、修学旅行の学生も、例年より班別行動が多く、様々な店舗に分散して地域共通クーポンを利用して頂きました。利用者は普段よりお得に旅行を楽しめますし、地域にも観光施設を通じて幅広い産業にお金が回ります。一見すると、自分も相手もしあわせのようにみえますが、全国的に逼迫する医療現場を思えば、一概に是非で判断することは大変難しいです。
 また、今や日常の習慣となったマスクの着用や手指の消毒も、自分と相手をウイルスから守り、感染リスクを軽減することができます。しかし、呼吸器官や皮膚の疾患により、それらが難しい方にとっては、実質的な強要を苦痛とお感じのことでしょう。
 自分と相手のしあわせが必ずしも同じでないとき、いったい何をすべきかと問われれば、それは、呼吸を調え、それぞれの求めるしあわせの違いを見つめ、相手のために、今自分ができる事を探し、実践することではないでしょうか。
 
 「三密(密閉・密集・密接)を避ける」。「マスクの着用」「手洗い」「咳エチケット」。
 お互いに譲り合い、助け合い、支え合い、安心して生活が送れるように、本年は私たち一人一人が、「未来利他」に集中したいものです。
 

天野太悦

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