法話の窓

いまあるものを生かしきる ―こころの闇を照らす―(少欲知足)(2008/10)

 暗闇はなくならない

 

 蛍光灯をつければ、漆黒の夜も昼のように明るくなります。太古から、当然のようにあった暗闇は、わたしたちの身のまわりにはあまり見あたらなくなりました。そのかわり、夜の世界で居所をなくした暗闇は、こころの中に住みつくようになりました。

 心の闇は、貪りや、いかりとなって、とうてい理解しがたい、悲しい争いを増加させ、明るかった昼の営みを蝕んでいます。しかし、闇があるからこそ、明かりのありがたさに気づけるのです。その暗闇の存在に気づいていかねばなりません。
「水はよく船を浮かべ、また船をくつがえす。薬よく病を療し、また身命を害す。万般ことごとくしかなり。」―慈雲尊者(1718~1804)『人となる道』。水の上には船を浮かべることができるが、水はまたその船を転覆させる。薬も病を療ずることができる半面、命を損なうこともある。すべてのものはことごとくそのようなものである。わたしたちは、便利であることを当たり前のように享受しています。しかしその裏で、限りある資源が底をつき始め、自然の営みがバランスを崩し始めているのです。すべての事象は表裏一体であるから、そのことをよく認識して生活しなさい、と慈雲尊者はおっしゃるのです。

 

  <先人の願いをおもう>

 そこで、この豊かな時代を少しでも長く引き継いでゆくために、どのような心がけが必要なのでしょうか。それはまず、文明の進歩に貢献してきた先人たちの「皆が少しでも幸せに暮らせるように」という願いをおもうことです。生活用品すべてに、簡単には捨てられないほどの願いがつまっているのです。そして地球上のあらゆるものが、身を削ってその願いに協力してくれていることにも気づかなければなりません。電球一つに流れる電気にも、先人の願いと、宇宙に生きる地球のはたらきがつまっている、だからこそ大切に使ってあげないといけないのです。

 

  <工夫するということ>

 「ものには命が宿る」といいます。すべてのものに、先人の願いと地球の恩恵が宿っています。そして次に「あなたのこころ」が宿ります。他人と同じものを持っていても、どこか風合いが違うように感じるのは、その人の色にものが染まるからです。簡単にものを捨てることは、自分のこころを捨てているのと同じです。ものを大事にできる人は、人も大事にできる人です。ものを工夫して使いきれる人は、与えられた仕事も工夫できる人です。便利すぎて、ものがありすぎて、こころが真っ暗闇になっていませんか。使いきろうと工夫する、智慧の光でそのこころを照らしてみてはいかがでしょうか。

 

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