法話の窓

食事作法 「あたりまえに感謝」(2009/04)

 私たちの生活の中でのあたりまえのこととは何でしょう。あたりまえとは特別に意識をしなくても誰もが自然に行っていることです。ご飯が食べられること、呼吸ができること、眠ること、元気で過ごせることなどたくさんあると思います。その中のひとつの食事。自分の命を生かすために他のたくさんの命を食材として頂いている食事は、食事があたりまえに出来る環境に生かされていることは何よりも幸せで感謝すべきことだと思います。ところが豊かになりお金を出せば好きな物を手に入れることができるようになった日本では、食事ができることはあたりまえすぎて幸せだとは思えなくなっているのかもしれません。
 グルメ番組や美食などの雑誌は相変わらず人気ですが、それは食事の大切さを示すものではなく他人より珍しく、美味しい物をたくさん食べるかということに関心を向けているように思えます。日本で1年間に発生する生ゴミは1,940万トンで、その内で家庭から出る生ゴミは1,000万トンだそうです。つまり食べ残しなどをふくめた生ゴミの半分は日々の生活の中から発生しているのです。残念なことに飽食の日本では自分の欲求を満たせば他の食べ物は捨ててしまい必要以上に命を無駄にしているのです。

 

 仏教に「小欲知足」という教えがあります。あまり欲ばらないで、少し足らなくても満足し、感謝することを知りなさいという教えです。欲求を満たすためだけでは、物を大切にするどころか、いつになっても本当に満足することはできません。だからといって、欲求や現代の食事のあり方の全て否定してしまうことはできません。やはり日々の生活の中で自分が主体性を持ってどのような気持ちで生きるかが大事ではないでしょうか。
 環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア副環境相ワンガリ・マータイさんが国連本部で「世界的に『もったいない』キャンペーンを展開したい」と演説したのは有名です。世界規模で環境問題が叫ばれる中でワンガリ・マータイさんは日本語の「もったいない」が物を大切にするといったあたりまえのことに気付くための一番ぴったりする言葉で、他の国にはない言葉であると語っています。
 「もったいない」は「小欲知足」の教えそのものであり、その実践の一つに大切な食事を頂く作法もあると思います。

 

 『食事の五つの誓い』
 一つ、すべてのものに感謝してこの食事をいただきます。
 二つ、自分の日々の行いを反省してこの食事をいただきます。
 三つ、欲張ったり残したりしないでこの食事をいただきます。
 四つ、身体と心の健康のためにこの食事をいただきます。
 五つ、みんなが幸せになるためにこの食事をいただきます。
    合掌、いただきます。
             (山陰西教区学徒研修会資料より)

 

 禅の食事作法の教えである食事五観文(*)を子ども達にも分かりやすいよう簡略した誓いの言葉です。そして五つの誓いの言葉を象徴する形が両手を合わせる合掌の姿でもあります。姿勢を整え、音を出さないで静かに頂く禅の修行の作法も大事ですが、一般的にはあまり難しく考えるのではなく、命を頂きありがとうと素直に合掌し、出された食材に感謝して美味しく頂くことが大切です。もし誰もが他人事ではなく自分のこととして家庭、学校給食、レストラン、飲み会などどのような場所でもあたりまえに合掌を実践し食事を頂くようになれば「もったいない」の精神は自然に受け止められるはずです。さらに、そのような姿は必ず周囲の人々の心を動かし「感謝」「命の尊さ」など今日求められている人としての正しい心のあり方が伝わると思います。生きる基本である食事などのあたりまえのことに感謝し、合掌などの作法を通じて心を調えることは心豊かな社会を築く土台にもなるのです。

 

*食事五観文
一つには、功の多少を計り彼の来処を量る
二つには、己が徳行の全闕を忖って供に応ず
三つには、心を防ぎ、過貪等を離るるを宗とす
四つには、正に良薬を事とするは形枯を療ぜんが為なり
五つには、道業を成ぜんが為に、応にこの食を受くべし

 

森山隆司

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