法話の窓

024 今、私に出来ること

「すこしはおうちのお手伝いをしなさい。」

 みなさんは、こんなことをお父さんやお母さんから言われたことがありませんか。私は子供のころ何回も、父や母から言われました。今は、自分の子供に向かって同じことを言っています。そして、この言葉を言うたびに、あまり言うことをきかなかった自分のこどものころを思い出しています。

 今は、落ち葉の季節です。お寺にある桜の木も見ている前でパラパラと紅や黄色の葉を落としています。このごろは、庭の落ち葉を掃くことが、毎日の仕事になっています。

 このあいだの朝、落ち葉を掃いていると、いつも犬をつれて散歩にくる女性に出会いました。立ち話をしていると、お寺の下の道をランドセルを背負った子供たちが何人も通っていきます。
 その姿を見ていた女性は、自分の子供のころを思い出してこんな話をしてくれました。  

 彼女が子供のころ、おうちでの仕事が2つあったそうです。

 ひとつは、毎朝、家の廊下を雑巾でふくことです。

 彼女の家は大きな農家で、家の南と北には広くて長い廊下がありました。ですから毎朝の廊下の雑巾がけは大変です。下を向いて両手をいっぱいにのばして雑巾をおさえ、腰を上げて、いっきに駆けぬけるようにふいていきます。息がきれるのでとてもつらくて、サボってはしかられていたそうです。

 もうひとつは、学校から帰ったあとで、おつかいに行くことです。おつかいにもたくさん失敗がありました。
 ある時、お母さんにたのまれて、おなべを持ってお豆腐を買いに行きました。そして、お豆腐屋さんから帰る途中、ふっと友達と遊ぶ約束をしていたことを思い出したのです。彼女は家へ向かって走り出し、お豆腐の入ったなべを両手で持ったまま、勢いよく玄関へとびこみました。そのとたんにつまづいて転び、頭をおなべの中につっこんでしまったのです。もちろんお豆腐はぐちゃぐちゃになってしまいました。彼女の頭や顔には、つぶれたお豆腐があちこちにくっついています。
 もの音を聞いて奥から出てきたお母さんは、立ち上がってボウ然としておなべをながめている彼女を見て、思わず笑い出してしまったそうです。

 あとになってから、お母さんに大そうしかられました。彼女はみんなの食べ物をだいなしにしてしまったことから悲しくてつらかったと話していました。

 決めたことを毎日続けていくことは、誰にとってもむづかしいことだと思います。ついついあとまわしにしてしまいがちです。

 彼女にとっても、その2つの仕事は、とても疲れることでした。それでも、仕事が終わった時は、自分のしなければならないことが終わったという安心した気持ちと、それが出来たという満足した喜びが生まれていました。そして何よりもうれしかったのは、お母さんが、その度毎にいっぱいの笑顔で喜んでくれたことだったそうです。

 言われたことを喜んでもらえるように行うこと。それは相手の方が喜んでくれるということだけではありません。その喜びの顔を見ていると、自分の中にも大きな励みと、喜びの気持ちが生まれてきます。その気持ちは私達の心を広く豊かにしてくれると思います。 

 そして、もし出来るならば、言いつけられなくても、相手の方に喜んでもらえるような何かを考えて、やってみませんか。どんな小さなことでもいいと思います。「明日は雨がふるかもしれないね」と、言われるかもしれませんが、本当にうれしそうな顔をしてくれると思いますよ。

小島宗全

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