法話の窓

072 こころのお掃除をしましょう

 私のお寺の庭にはたくさんの木が植えてあります。落ち葉の時期は庭掃除が大変です。やれやれ終わったと思ったとたんに、風が吹けばもとどおりの落ち葉だらけになってしまいます。「こんなにたくさん木が無ければよいのに」と、自分勝手なことを思いながら落ちた葉っぱを集めます。

 みなさんも私のようなことを考えたことはありませんか?部屋の掃除や机の引出し。おもちゃ箱や本棚・・・きれいにしたとたんにまた汚れてしまう、といった経験はありませんか?庭の掃除や部屋掃除は、落ち葉やホコリを掃いてしまえばきれいになります。掃除のあとは気持ちの良いものですね。

 しかし、私達のこころはどうでしょう。私達はみんな美しいこころを持っているのですが、「さぼりたいなあ」とか「いやだなあ」とか「もっとほしいなあ」とか「きらいだなあ」など心の中で考えていますと、心の中も庭の落ち葉のように悪いこころが増えてきます。そうすると良いこころが隠れてしまい、人の意見も聞かず自分勝手になってしまい人に迷惑をかけても平気になってしまいます。

 仏教にこんなお話があります。

昔、インドのある国にわがままで乱暴な王子がいました。どんなにお父さんやお母さんに叱られても注意されても聞かないでいつも悪いことばかりしていました。

ある時そのお城にお坊さんがやってきました。王子の父である王様がそのお坊さんに

「なんとか王子の悪いこころを直してもらえないでしょうか」と頼みました。

お坊さんはしばらく考え、そして王子を呼んで庭につれて行くと、庭の隅にある一本の小さな木を指さし「王子さま、その木の芽を噛んでごらんなさい」と言いました。王子は言われたとおりに木の芽をかみました。すると「にがい」と叫んですぐに吐き出しました。

「そうでしょう。この小さい木はニンバといって毒を持っている木です」とお坊さんは言いました。

王子は「毒を持った木が庭にあっては大変だ。小さいうちに抜いてしまわなければ」と言いました。お坊さんは「王子の言うとおりです。小さいうちには楽に抜けますが、大きくなったら大変ですね」というと、お坊さんは続けて「王子さま。あなたはわがままで乱暴だとお父さんやお母さんから聞きました。今は小さくてそれでいいでしょうが、大人になったら大変です。今のうちなら、そのわがままも乱暴も直すことが出来ます。でも大きくなってからではなかなか直すことが難しいでしょう。このニンバの木と同じです。」と言いました。

 王子は「ぼくが悪かった。これからはよい王子になるよう悪かったところは直します」と反省しました。お坊さんも「そのこころがあれば、りっぱな王様になるでしょう」と。

その日から王子は反省をおこたらず立派な王様になったといいます。悪いこころに気付いてこころのお掃除をしたのですね。

 今年も残り少なくなりました。部屋などがよごれてかたづけが大変になる前にこまめに整理整頓し、美しい環境で今年一年を振り返り、心の中もお掃除をして新しい年を迎えましょう。

入不二香道

ページの先頭へ