法話の窓

075 こころはつながっている

「おしょうさん、こんにちは。」(裕太くん)
「やあ、裕太くん。野球の練習はもう終わりかい?」(おしょうさん)
「うん、冬は走ったり、筋力トレーニングがほとんどなんだ。」
「がんばってるねぇ」
「大きくなったら、プロ野球に入って、メジャーリーグのイチロー選手のようになるのが夢なんだ。」
「楽しみだなぁ。期待してるよ。」
「うん」

「そういえば、この間ニュースでイチロー選手が、少年野球大会に呼ばれたニュースを見たかい?」
「見た、見た!ぼくも会いたかったなぁ。」
「その中でイチローがとても心に残るいいことを言っていたね。」
「うん、『いじめ』はいけない、っていうのだね。」
「そう。いじめはぜったいいけない。もし、きみたちのまわりで、いじめられたり、いじめている子がいたら、その子らに『いっしょに野球でもしよう』って呼びかけてほしい、って言ってたね。」
「そうだね。」

「いじめのために、日本中でたくさんのこどもや先生のいのちまで失われて、とても悲しくて、つらい問題だね。」
「ぼくのまわりにもいじめはある。」
「イチローはどちらがいいとか、わるいのじゃない。いっしょに一つのことにとりくむことで、しぜんと『いじめ』なんて、のりこえてゆけるんだ、って言いたかったと思うんだ。」
「ふ~ん。」
「だれもいじめがいいことだとは思ってないし、いじめられたくない。」
「うん。」

「頭でわかっちゃいるけど、心がやめられない。それで相手を傷つけ、いじめるほうも自分のこころを、ナイフで傷つけているようなものだと思うんだ。」
「でも、ほんとうにいじめてるのは、ほんの少しの人なんだ。ほとんどは自分がいじめられるがわになりたくないから、いじめるがわにまわったり、しらんぷりしたりしているんだ。」
「じぶんだけはなんとかたすかりたいってことだね。」
「そうだね」

「でも、それでほんとうに安心かい?いじめている子も、いついじめられるがわになるかおびえているのじゃない?いつもびくびくしてつらい毎日じゃないかい?」
「こころにフタをしてるって、感じかなぁ。」
「いじめられている子の悲しさ、つらさ。いじめている子のちっぽけなこころのみにくさ。それを知ってて知らんぷりする、じぶんのこころの弱さやひきょうさ。ぜんぶフタをして見ないようにしているってことだね。」
「うん」

「でもね、こころはひとりひとり、別じゃないんだ。みんなのこころは、いちばんおくのところでひとつにつながっている海のようなものさ。だから、うれしいこと、つらいこと、かなしいことも、ほんとうは口で言わなくたってわかる。手にとるようにわかってしまうはずなんだ。しずかな鏡のような池に石をひとつ投げてごらん。石が飛び込んだまわりから波が池全体に広がっていくようなものだね。」

「わかった!イチローは『いじめ』なんてちっぽけな波はやめよう、カッコわるい、って言ってるんだね」
「そう。思いやりと友情の波に変えよう。こころが世界を変えられるってね。」

梅澤徹玄

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