法話の窓

076 ベトナムのお店で

 これは私が、ベトナムへ旅行に行ったときの話です。
 私は、ベトナムの南方の中心都市ホーチミン市での観光を終え、ついでに興味のある焼き物の店に入りました。
 ベトナムにはバッチャン焼という素朴で味わい深い陶器があるのです。
 お店で品物を選んでいて、赤い模様のあるお鉢が気に入りました。
 ガイドさんを通して、いくらですかと店の人に尋ねると、日本円で1個300円といいます。
 私は、空港からホテルまでのタクシーの初乗り運賃が、日本円で80円でしたから、それと比較すると、お鉢1個に300円は高いと思い、10個買うから少し安くして欲しいといいました。
 すると、「1個が欲しくても、貧しくてどうしてもお金が足らないという人には安くしても、あなたのように10個も買うことのできるお金持ちの人には安くできない」と、店の主人がいっていますと、ガイドさんがいいました。
 私はなんだか急に恥ずかしくなり、言い値で10個お鉢を買って店を出ました。
 私は日本人として豊かな社会で暮らすなかで、お金にとらわれ、知らず知らずのうちに思い上がっていたと思い知らされました。
 そしてお鉢に花の模様を1つ1つ心をこめて絵付けをしている小学生くらいの女の子たちが写っている写真を思い出しました。

「お参りのとき、後ろでおばあさんといっしょに座っていた「しづちゃん」に聞きました。
しづちゃん、だるまさんて知ってる?」
「ころがるおもちゃ?」
「インドから中国へ来て、仏様の教えを伝えた人だよ」
「だるまさんて人間だったの」
「坐禅をして、仏さんの心を伝えた人だよ、だるまさんのかっこうは坐禅をしてる姿だよ」
「ただのおもちゃじゃないんだ、坐禅して修行しているのね、大きな発見!!」

 人間は「気付き」の動物といわれます。
少しづつ「気付き」ながら、人間は成長してゆくのです。
 早稲田大学の教授で歌人・書家としても有名だった「会津八一」先生は、学生たちに「日々真面目あるべし」といつも励ましておられました。
「日々新しい発見をし、自分を磨き、人間性を高めていって欲しい」ということでしょう。
 発見を通して、みんな少しずつでも心を美しくしていきましょう。

松久宗心

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