法話の窓

084 心の毒

「私たちの心をだめにする心の毒が三つあります。」

 私は健康であることを願って、すぐ近くにある高さ百メートルにも満たない里山を歩いています。山門を出発して山門に帰りつくまで1時間20分かかりますが、寺の前の国道はダンプやトラック、バスやいろいろな自動車が切れ目なく走り、排気ガスで体のためによくないので地図を見て里山コースを自分で作り、歩いているのです。この道は森林浴もできるし人にもほとんど会いません。しかし1時間以上の時間が取れない時は、寺の裏側を流れている県で一番大きい川の土手沿いのジョギングコースを歩いています。

 里山にくらべ、この川のコースは多くの人が歩いています。犬を連れて散歩する人もたくさんいて、テレビのモデルになるような可愛い犬にもたくさん出会います。ところがこの川沿いの土手のコースで大変な事件が起こりました。誰がしたのか分かりませんが毒入り饅頭(まんじゅう)をばら撒(ま)いた者がいます。散歩していた犬たちがその鰻頭(まんじゅう)をみつけて食べたので、その犬たちがたちまち口から泡(あわ)を吹きだし、悲痛な泣き声をあげながら飼い主の前でもがき苦しみ、死んで行きました。慌(あわ)てた飼い主たちはその犬を抱くやら、犬の名前を大声で呼んでみたり口の泡(あわ)を拭(ふ)いてやったりしてもどうにもなりません。通りがかった5、6匹の可愛い犬たちが次々に死んで行きました。死んだ犬を抱きしめて呆然(ぼうぜん)としている飼い主やワァーワァー泣いている女性の飼い主もいたそうです。

 生きているものたちが毒を飲むと死ぬと言うことになります。こう言う悲惨(ひさん)なことをした者はどんな心を持った者だろうか。生きものの体にとって悪いもの、命を奪うものを毒といいます。この毒入り饅頭(まんじゅう)をバラ撒(ま)いた者はどんな心を持った者だろうか。お釈迦様(しゃかさま)の教えでは、この毒のバラ撒(ま)き犯人の心も毒で死んでいるのです。この心にとって悪い毒を三毒とお釈迦様(しゃかさま)はおっしゃっております。私たちの心にとって良くない三つの毒とはどんなことでしょう。

 それは、①むさぼりの心『貪欲(とんよく)』、②いかりの心『瞋欲(しんよく)』、③おろかな心『愚痴(ぐち)』。つまり貪(とん)・瞋(じん)・痴(ち)の三毒と申しております。
 何でもむさぼることは良くないことで、むさぼり食べること、指輪(ゆびわ)や自動車も次々に変えて借金(しゃっきん)しながら欲しがり続けることはいつか失敗をするでしょう。瞋(いか)ることも良くありません。すぐカーッとなって人を刺し殺したりすることになります。おろかなこと、痴(ち)が私には一番気になります。それはものごとについて何が正しいのか、どこが間違っているのか、その正しい判断ができない愚(おろ)か者になるからです。高校三年生の男の子が母親を殺し、その首を切り落とし平気で警察署(けいさつしょ)に持って行く。また片腕(かたうで)も切り落とし、その腕(うで)を植木鉢に差し込んでスプレーで色を吹き付け、しかもその指もいろいろ折り曲げて細工をしていたと言うから、その高校生の男の子は残念ながら、形は人間の姿をしていますが、心の中にいつのまにか鬼(おに)・悪魔(あくま)・妖怪(ようかい)が住みついたとしか思えません。

 このことが痴(おろか)と言う毒に侵されたと言うことでしょう。この心の毒、三毒に倒(たお)されないように、あなた方も健康で強い心をしっかり育てて行きましょう。

朝山芳宗

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