法話の窓

087 オール1だって!

 『オール1の落ちこぼれ、教師になる』という本を読みました。愛知県、豊川(とよかわ)高校の教師、宮本延春(みやもとまさはる)先生が書かれた本です。すごいタイトルですね。だって想像できないでしょう、中学校1年生から3年生まで、ずっーとオール1。その人が教師になったんです! 宮本先生の言葉です。「私は、いじめ、落ちこぼれ、引きこもり、すべての気持ちがわかる教師です」。

 

 本を読んでいくうちに、先生のある思いが伝わってきました。それは全編(ぜんぺん)にわたって溢(あふ)れ出る宮本先生の「感謝の心」でした。「今ここに自分がいるのは、いろんな方のおかげがあったからこそなんだ」という気持ちが伝わってきます。この感謝の気持ちが、先生の心に具(そな)わっていたからこそ、今の先生の姿(すがた)があるのではないかと感じました。

 

 人間いたずらに多事(たじ)、人生いたずらに年をとる、

 今やらねばいつできる、わしがやらねば誰(だれ)がやる

 

 この言葉は1979年に107歳で亡(な)くなられた彫刻家(ちょうこくか)、人間国宝(にんげんこくほう)・平櫛田中(ひらくしでんちゅう)さんの名言(めいげん)で、私が座右(ざゆう)の銘(めい)としている言葉です。特に「今やらねばいつできる」という言葉が大好きです。嫌(きら)いなこと、不得手(ふえて)なことを、後(あと)のばしにしたものの、後(あと)でできたことなどほとんどありません。何故(なぜ)だかわかりますか?それは明日には明日やらねばならないことが一杯(いっぱい)でてくるからです。だから「今やらねばいつできる」と、少しでも遣(や)り残しがないように今できることを、今しておかなければと自分に言い聞かせています。

 

 私は、特異(とくい)な経歴の宮本先生をスゴイと思います。だって、23歳から小学校3年生のドリルを買って、遣(や)り残したことに手をつけ始めたのですから。そこから高校に入学し、ついには『オール1の落ちこぼれ、教師になる』と目的を遂げられました。このことは、誰(だれ)も彼(かれ)もができうることではないと思います。私にはその自信はありません。だから「今やらねばいつできる」と精一杯、一所懸命に今やらねばいけないことをコツコツとやっていこうと心がけているのです。

新山玄宗

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