法話の窓

【曲肱】文化の創造(2008/11)

 十一月は霜月、霜の降る月、霜降り月です。「霜経楓葉紅」(霜を経て楓葉の紅)という語がありますが、あの見事なもみじ葉も霜が降らなければ紅葉しないといいます。転じて何事も厳しい修行を経て初めて物になるのだといわれるのです。

 

 子供の頃に寺の中庭に霜降り柿と呼んでいた古い柿の木がありました。名前の由縁通り、霜が降ると食べられるということで、ひたすら霜の降るのを待っていました。また、収穫に際しても必ず、数個は残し、鳥やほかの動物たちにも分け与え、共に生きているという心が見られました。
考えてみますと、私たちの体は四大(しだい)、地、水、火、風という四つの元素からなりたっているといわれます。これらは、土、水、太陽の光、空気という生命の根源に繋がるものです。したがって、この元を汚染することや、無駄にするというのはこの四大を根(こん)として共に生きている一切の衆生、森羅万象も含めるすべての物の命を危うくしているのも同じといわれるのです。
荘子の「天地一指 万物一馬」という語は天地一切の根を同一にしているすべての物は皆平等であるということです。また、『槐安国語』の中では、みんな同じではなくて、何億の人がいても同一人物は一人もない、みんな一人一人が大切な命を持って生きている個々の人間であるという違いのあることが説かれています。


 十一月三日は文化の日です。この日は平和と自由を愛す文化国家を創造する憲法の公布された日でもあります。文化国家とは高層建築や科学が進んでいる国というのではなく、私たち一人一人の国民が自由と平和を愛すというような意識を持った生き方をしているかどうかなのです。
妙心寺開基の花園法皇様は、「中古以来、造寺を以て本となし、仏事の儀華麗を先となす。太持って仏法に背くことなり。梁の武帝造寺を達磨に問ひ、功徳あるかと。大師答ふ、功徳なしと云々。(略)尤もこの意を覚得し、始めて仏事を許修すべきのみ」(花園院宸記より)とおっしゃり、興隆仏法を掲げられ、自ら実践されていました。仏教文化国家とは、建築や芸術のみならず、仏教の教えが政治や経済や人々の日頃の生き方にどのように生かされるのかということでしょう。法皇様のご日常からよくよくお伺いすることが出来ました。また、後進のご指導も怠られず、貞和四年十一月十一日、崩御されました。御齢、五十二歳でした。

林 学道

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