法話の窓

【好日】薔薇のトゲ(2009/05)

 私の住む福山市は、バラの街と呼ばれています。毎年五月には二百八十種類、五千五百本の薔薇が植えられた市内の公園でバラ祭が行われ多くの人たちで賑わいます。
ところで、人には好き嫌いがあり、薔薇が嫌いだという人もいるでしょう。嫌いだという人にその理由を尋ねると大抵の人はトゲがあるからと答えるそうです。実際に、そんなに嫌われるトゲなら、取ってしまおうと、トゲなしの薔薇が売り出されたことがありました。しかし、全く売れなかったとか、なぜでしょうか。

 

 園芸研究家で薔薇に関する著書も多い亀山寧さんが、その本の中で次のような経験を語っておられます。
「嫌がられる薔薇のトゲに感動を覚えたことがあります。それは激しい台風があった年でした。台風の去った後、庭に出てみると丹精込めて育てた薔薇も傷めつけられ多くが株ごと倒されていました。その倒れた薔薇を起こし、トゲにまといついている葉を直しているときにふと気がついたのです。今まではトゲで葉を傷めるとばかり思っていたが、トゲが薔薇に大切な葉を風から守って木に引き留めているのだと、生長に必要な最小限の葉をトゲが確保していることに......。それ以来、薔薇のトゲがいとおしく、貴い存在に見えてきました」
と、仏教では、世の中には無駄なものは何一つとしてなく、すべて必要なものである、と説きますが、まさしくその通りであることを亀山さんの文章が教えてくれます。
八十歳をこえて、執筆活動や法話、講演に全国を駆け巡り八面六臂の活躍をする瀬戸内寂聴さんが色紙に好んで書く言葉が「若き日に薔薇を摘め」だそうです。薔薇を摘むと、トゲが刺さって血が出ます。しかし、若いうちはすぐに治るのだから、怖がらずに何ごとにも挑戦しなさいと......。血の出るような苦しみや挫折も、それを乗り越えたときには大きな宝になります。そして、その人生経験により薔薇をトゲで怪我をすることなく摘めるコツを会得するのです。上からやさしく撫でるように触れ、思いやりを持って摘むと下に向いているトゲは刺さらないことを......。

栗原正雄

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