法話の窓

【好日】食欲の秋です(2009/10)

 旬の食材が豊富で食欲をそそられる季節です。その食欲の秋に水を差すようですが「フードマイレージ」という言葉があるのをご存知でしょうか。食料の輸送量に運搬距離を掛け合わせた数値で、食品が消費者に届くまでにどれだけの輸送エネルギーが使われているかを示す指標だそうです。この数値が大きいほど食のぜいたくのために地球環境に大きな負担をかけたことになります。

 

 農水省の試算によると、日本のフードマイレージは二00一年の時点で約九千億トン・キロメートルで世界最大。日本の二倍以上の人口をもつ世界一豊かな国であるアメリカの約三倍で、島国で輸送距離がかさむという事情を差し引いても大変な数値です。現代の日本人は歴史上、どの時代、どの国の王侯貴族よりもぜいたくな食事をしているとの指摘もあります。しかし、一方で地球環境に大きな負担をかけながら集めた食料の二十五パーセントが残飯として捨てられているのが現状です・・・。国内で一年間に食べ残された食品の金額は十一兆円余にも達するとの政府試算もあります。    以前、テレビである有名な料理人が、「いまの日本では、おいしいものを食べることはいくらでもできます。外に出てお金を出せば世界中の様々な国のおいしい料理を味わえます。しかし、おいしくものを食べる人が少なくなりましたね」と言われました。ハッとしました。「おいしいもの」と「おいしくもの」を、たった一字違いですが大きな違いです。私たちは、毎日食事をしていますが、よく考えてみるとお米や野菜、魚や動物の生命を食べているのです。他の生きものの生命を犠牲にしないと生きていけないのが私たちなのです。

 食事のときに「いただきます」と言いますが、食料品を作ってくれた人や売ってくれた人、料理を作ってくれた人に感謝するだけではなく、多くの生きものの生命を食べさせてもらうという謙虚な心を忘れずに食事をしたいものです。それが、おいしくものをいただくということではないでしょうか。豊かさを通りこした飽食の時代です。食欲の秋だからこそ、私たち一人ひとりが食べることについてもっと真剣に考えたいものです。

栗原 正雄

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