【法悦】われも耕す わが心田(2012/03)
今日彼岸 ぼだいの種を蒔(ま)く日かな
三月は春のお彼岸です。ご先祖さまのご供養をすると共に、私たちの心の田園に、菩提心の種子をまく、発願(ほつがん)の週間です。
ある日、お釈迦さまが托鉢をしながら、田を耕す耕田(こうでん)バラモンの家の前に立ちました。
バラモンはつかつかとお釈迦さまの前に立ち、「沙門よ、わたしどもは耕し、種子をまいて、食を得たならばいかに」と。
それに対するお釈迦さまのお答えは、
「バラモンよ、わしも耕し、種子をまいて、食らうのである」
予期せぬお釈迦さまのお答えにバラモンは更に質問しました。
「だがわたしどもは、あなたが鋤(すき)をひき、牛を追うているところを見たことがない、いったいあなたの耕すということは、いかなることであるか、あなたの種子をまくということは、どんな種子をまくのであるか」
それに対し、お釈迦さまはすばらしい詩をもって答えられました。
信は わがまく種子である 智慧は わが耕す鋤である
身口意の悪業を制するは わが田における除草である
お釈迦さまは、自己の心地の開発のいとなみを、耕作のいとなみに即して語り、更に、
精進は わが牽(ひ)く牛にして ゆいて帰ることなく
ゆいて悲しむことなく われを安らぎ こころ運ぶ
結びにお釈迦さまは、
かくの如きが、わが耕耘(こううん)である、不死(とわの幸福)は、その果実である。われはその耕耘をなして、すべての苦悩よりのがれた。
耕作のいとなみが、大地を耕し荒地を開き、美田となして種子をまき、そこから豊かな収穫をあげるように、静かに坐って身と呼吸と心を調え、貪(むさぼ)りや、瞋(いか)り、愚痴、利己心の心の雑草を取り、布施、持戒、忍辱(にんにく)、精進、禅定、智慧の菩提心を発して、自己の心地を開明して、豊かな人間性に目覚め、家庭を社会を和(なご)やかな、美しい心の花園にすることが、お彼岸の目的であります。
阿含経 相応部教典『耕田』より
彼岸 彼岸入り、中日、結願の1週間をいう
尾関義昭