法話の窓

【一滴水】心のふる里(2012/09)

 ある中年女性のお話しです。


 痴呆にかかったお婆ちゃんが、夜中に急に起きて、ゴソゴソと荷物をまとめはじめました。そして、真面目な顔をして
 「わたし、里へ帰ります」驚いた私は、思わず、
 「こんな夜中に、帰られませんョ」
 と、ついに押し問答になってしまい、お婆ちゃんの気持が、さっぱりわかりませんでした。
 しかし、ある時ふと、気付いたのです。
 「ああ、帰りましょうね。でも今夜は遅いから明日一緒に帰りましょうね」と言ってあげればよかったのに。そうすれば、きっと、
 「里へ送ってくれるかい」
 「ええ、送ってあげますよ」と、会話が弾んで、お婆ちゃんは安心して、ぐっすりと眠ることができたことでしょう。
 説得ではなく、納得させることが大切なんですね......
 人間だれしも心のふる里というのでしょうか、いつしか昔に帰ることは自然なことかもしれませんね。
 そこに心の安らぎがあり、その安らぎがさらに深まって、悩みも、わだかまりも、何にもない、すばらしい心のよりどころを得ることを「安心(あんじん)」といいます。
 私たちの生活の中には、どんなに時代が変わろうとも、生きている限り、いやな日もあればよい日もあります。たとえどんな日であろうとも、『日々是れ好日(にちにちこれこうじつ)』と受け入れられる柔軟な心をもちたいものです。


      し あ わ せ
    むかし 私には手が何本もありました
      けれど 今は二本だけ残っている
    おじいさん あなたが逝ってしまって
      そりゃ...... いろいろありましたけれど
        今は とっても しあわせですよ
    あったかい家族と よいお仲間に 囲まれて


心のふる里は「安心(あんじん)」の中にあるのかもしれません。
 

田尻和光

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