法話の窓

030 もう一つのウサギとカメ

 イソップ物語にうさぎとカメの話があります。うさぎとカメが向こうの山のふもとまで競走する話です。

 のろまなカメにうさぎが負けるはずがありません。ピョンピョンと走り抜け、見る見る間にカメを引き離し、とうとうカメの姿は見えなくまります。そこで、安心しきったうさぎは途中ちょっと一休み・・・・・のはずが、ぐっすりと眠ってしまいます。そこへ、のろまなカメが追いつき、追い越し、やっと目を覚ましたうさぎが慌てて走り出した時には、すでに遅く、のろまなカメがうさぎより先にゴール。

 この話で、私達は油断大敵、気を抜いてはいけない。遅くても一歩一歩しっかりと努力することなどを学んできたと思いますが、何か足りない気がします。実はもう一つのうさぎとカメの話があります。

 同じようにうさぎとカメが競走をしますが、ゴールは阿弥陀様がお待ちになるお浄土という所です。やはりうさぎは速く、途中で一休みします。そこまではイソップの話と同じです。しかし、これからがちょっと違っています。うさぎに追いついたカメは、『うさぎさんそんな所で寝ていてはお浄土にたどり着けませんよ。』といってうさぎを起こしたのです。そして共に再スタートをします。いよいよお浄土が近づいてくると川が流れています。うさぎは川を渡れません。カメは背にうさぎを乗せて川を渡ります。すると、今度は急な険しい山道です。カメは登っても登っても転がり落ちます。うさぎはカメを後ろから懸命に押し上げます。そして、山を登りきった時、お浄土の光が輝き、その光の中にうさぎとカメは手を取り合い阿弥陀様に無事に迎えられるというお話です。

 イソップの話に欠けている事、それは支えあい、助け合って、みんなで幸せになっていくということです。途中で困っている人、怠けている人がいたら手を差し伸べてあげられる。自分だけが幸せになるのではなく、みんなで幸せになれたならこれほど素晴らしいことはないでしょう。他のことは知らない、怠けている人はほっとけでは社会は平和にはなりませんし、人間は幸福にはなれません。

 今後は、もう一つのうさぎとかめ、みんなで幸せになれるように支えあい、助け合い拝みあうという日々を送りたいですね。

辻 良哲

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