法話の窓

060 シンプルに、エレガンスに

 サラリーマン川柳に、「賽銭を入れすぎ 願いを追加する」という一句を見つけました。私たちお坊さんにとっては有り難い話ではありますが、まことに人間の欲望には際限がありません。

 今日、豊かで快適なこの日本では、お金さえあればなんでも手に入れることができます。そのためお金を儲けることがすべての価値基準の元となり、お金のためなら人の道にそれたことも平気で行なう。そんな事件のなんと多いことでしょう。

 環境破壊、地球温暖化などの原因も、果てることのない豊さ・快適さという欲望追求の結末であるといえるでしょう。こうした発想は、欲望の追求が幸福につながると信じながら、逆にその欲望によって、自らを苦しめる悪循環をもたらしてはいないでしょうか。

 「いたましきかな、世の中の人、名利の酒に酔いて、ついに正念なく、財宝の縄につながれて、一生自由ならず」

 この鉄眼禅師の言葉は、まさしく現代の風潮への的確な警鐘です。

 仏教には「少欲知足」という素晴らしい教えがあります。際限のない欲望を調御し、今の恩恵に目覚めていくという教えですが、一言でいえば、「もったいない」ということであろうと思うのです。今こそ、死語になりつつある「もったいない」という言葉の意味を改めて問い直していく時代ではないかと思うのです。

 思えば仏道の求道者や禅の祖師方の暮らしぶりは、権力・名利・財産というものに距離をおき、極めて枯淡・清貧の生活を送られました。欲を減すれば悩みも減る。そこに自分を束縛するものはありません。

 この「少欲知足」を「simple elegance」と訳した老師がおられます。少欲=Simple、知足=elegance、まさに見事な英訳です。

 もったいないとは、もののいのちを最大限に生かしていく教えです。もったいないとはものに感謝する教えです。であるからelegance=上品なのです。優雅なのです。

上野浩道

ページの先頭へ