法話の窓

068 エルメスのこと

 エルメスは野良犬です(シバ系・メス)。去年の夏ごろから、うちのお寺の番犬・ゴロー(シバ・オス)のエサをわけてもらいに時々やってくるようになりました。ゴローは喧嘩することもなく、エサを食べ残してやったりしていました。もしかしてゴローはそのメスの野良犬が好きになったのかも知れません。そんな様子を見て、妻や娘達が、その犬を『エルメス』と名付けました(わかりますよね、もちろん『電車男』からです)。

 ところが昨年12月のある日、エルメスは片方の前足に何重かの針金を巻きつけたまま、3本足でヨタヨタしながら姿を現しました。近所にイノシシが出没するというので誰かがわなを仕掛け、それに引っかかって、針金をひきちぎって何とかのがれたらしいのです。針金をはずしてあげようにも、野良の悲しさ、人の気配がすると、足をひきずりながら遠くへにげていってしまいました。

 エルメスはあの不自由なからだで、冬を越すことが出来るのか心配していましたが、春頃、妻がゴローを連れての散歩の途中、針金をつけたままのエルメスを見かけたというのを聞いて、本当によかったと一安心しました。この8月以来、ほぼ毎日姿をあらわしています。

 見ると針金より先の足は腐ってなくて、もちろん足を地面につけて踏みしめることは出来ませんが、くびれた先の足にもちゃんと毛が生えています。もっとよく見ると、どうやらおっぱいが大きいようで、子犬を育てているようです。どうしても子犬にお乳を飲ませなくてはならない、そんな理由もあって、栄養たっぷりのゴローのドッグフードを食べるために頻繁にお寺に姿をあらわしているのではないかと想像しています。

 自分のことだけでもすごく大変なことだと思いますが、その上子犬まで・・・。

 エルメスの警戒心は以前よりも弱まったようで、前のようにさっさとにげることはありません。姿をあらわす時間が長くなっています。もちろん触るところまではゆきませんが。そのうち子犬と一緒に姿を現してくれないかなあ、と期待しています。

 エルメスが懸命に生きる姿は、「命をどう活かす?」と、毎日私に問いかけてくるのです。

豊岳澄明

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