078 善は急げ
妙心寺のご開山無相大師は、傷んだ建物の修理などは後回しにして、弟子の養成に専念されていました。雨が降れば、ポタポタとお寺は雨漏りです。
一人の弟子が、雨水を受けるためにザルを持って駆けつけました。無相大師は、その弟子を、たいそうお褒めになりました。後から他の弟子が、桶を持ってきました。無相大師は、その弟子を厳しく叱ったそうです。
あなたなら、どちらの弟子をほめますか?
お年寄りや、身体の不自由な方が坐るところを探しているとき、私たちは、「すぐに席を譲ろう」と瞬間的に思います。
しかし、自分も折角坐れたのにとか、若い人が目の前にいるのにとか、近い人が譲ればいい、などと考えるともう立てません。
お釈迦さまが、法句経に示されています。
善をなすのを急げ。
悪から心を退けよ。
善をなすのに
のろのろしたら、
心は悪事をたのしむ。
「仏心(良心)は瞬時に現れ、次の瞬間、選り好み(感情)や、ためらい(分別)に流れますよ」と私たちの心の動きを戒めています。
みんな幸せになれるのに、機会を逸して不幸になることを無相大師は嘆かれています。
良心のままに素直に生きる人の養成に、無相大師は生涯をささげられました。ご自分は身なりもかまわず、雨漏りも弟子を育てる修行の機会にされました。
子育ての親も同じです。なりふり構わずわが子の養育に心血を注ぎます。
いのちを頂いたご両親、正しい生き方を伝えてくださった祖師のご恩を忘れないことは、幸せに暮らせるもとになるでしょう。
豊かな心は、仏さま・ご先祖の供養、お寺参り、お墓参りの習慣から育つといいます。機会あるごとに、真心を表すことのできる方は幸せです。
参照:真理のことば・感慨のことば(116) 中村 元訳 岩波文庫
横山博一