法話の窓

082 夢のお告げ

 ある日、つよし君は広い野原を歩いてた。すると、遠くに何か動くものが!それがだんだん近づいてきた。よく見るとそれはまぎれもなくゾウだった。「何でこんなところにゾウが?ここってサファリパーク?」ゾウはスピードを上げてどんどん近づいてくる。そして、ものすごい形相で襲ってくるんだよ。「やばい!」つよし君は、あわてて必死で逃げ出した。でもゾウはどこまでも追ってくる。逃げても逃げても追ってくるんだ。心臓はバクバク、足はガクガク。もうとても逃げ切れないよ。

 「どこかに隠れよう!」と思ったとき、ふと足元を見ると古井戸があったんだ。そしてその古井戸の中に藤蔓(ふじづる)が下がっていた。「ラッキー!ゾウがいなくなるまでこの古井戸の中に隠れていよう」つよし君は急いで藤蔓をつたって古井戸の中に下りていった。「助かった!」と一息ついていると、暗がりの中にぼんやりと井戸の底が見えてきたんだ。そこにはなんと、巨大なワニが真っ赤な口を開いて獲物が落ちてくるのを待っているじゃないか。「これは、とんでもないところに入ってしまったぞ。外へ出なくっちゃ」と上を見ると井戸の出口には4匹のコブラが鎌首をもたげているぞ。そして最悪、つよし君がぶら下がっている藤蔓を2匹の黒と白のネズミが、かわるがわるかじってるんだ。「やめてくれ!」

 こんなスリルのあるシーンいつか映画で見たよなぁ。冗談じゃない!上に行っても下に行っても、とどまっていても、もう絶体絶命。「もうだめだ」と口をあけて天を仰いだそのとき。口の中に甘い甘い蜜がたれてきたんだ。つよし君はその蜜の甘さに、自分のおかれた恐ろしい状況を忘れ、うっとりと酔いしれてしまった・・・・・。

 ハッと気づくと、つよし君は布団の上で寝ていた。「なんだ夢か。不思議な夢だったなあ。あのゾウや、ワニやコブラ、藤蔓をかじる黒白のネズミは、なんだろう。あの蜜の味はいったいなんだろう。目的もなく面白おかしく生きていて僕は、このまま歳をとっていったらどうなるのだろうかとこの頃少し不安に思っていたんだ。だからこんな夢を見たのかな。夢のお告げかもしれないぞ」

 ある日、お寺の前を通りかかったつよし君、坐禅会の看板が眼に止まったんだ。「坐禅...心を調えて自己を見つめよう」「これだ」つよし君は決心した。坐禅会に行こう!

 つよし君の見た夢は、実はお経の中にあるたとえ話だったんだ。ゾウは世の無常を、ワニは誰もに訪れる死を、コブラは病気になったり歳をとって不自由になることを、藤蔓と黒白のねずみは人の命のはかなさを、甘い蜜は、そのような現実を忘れて快楽におぼれている私たちのありさまを、それぞれあらわしていたんだね。

 

 お経は、真実の姿をくらまされて流されて生きている私たちに、真実に早く気づけよ、目を覚ませよ、と親切に教えてくれているんだよね。だって、君の大切な「いのち」を活かせる時間は限られているんだもの。早く「いのち」の本当の尊さを知って、真の生き方に目覚め、幸せにならなくっちゃね。

水野宏宗

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