083 いのちの風光
「私のお墓の前で泣かないで下さい~♪」ではじまる『千の風になって』という歌が反響を呼んでいます。作者は不明ですが、2001年のアメリカ同時多発テロで父親を亡くした11歳の少女が一周忌に朗読した詩『The Thousand Wind』を訳したものだそうです。救われない悲しみの中で悩んでいらっしゃる方々に、私たちもかける言葉に困ってしまいますが、亡くなった方からの遺族に向けた励ましとも取れる内容に心打たれます。
"身近な人の死・愛する人"の死を語るのはとても難しいことです。お釈迦さまは、この「人の死」に対して真正面から向き合った方でした。人間の逃れられない四苦(生きる、老いる、病気を患う、死ぬ)を見い出し、自ら出家をして「常に人間は変わっていくのだ(無常)。死に向かって生きているのだ。それならば残されている時間を無駄にすることなく、本当の自分を見い出さなければならない」と説かれました。
亡き人を思うとき、悔やまれることもあるでしょう。しかし、作家の武者小路実篤さんはいいます「生き残っている我々は、死んだ人々には何もすることができない。しかし、死んだ人々が生き残っている私たちを思ってくれる愛情は、並大抵でないものがあるを知る」と。
悲しみ、苦しみの中、私たちは救いを求めて彷徨います。しかし、本当の救いとは、お釈迦さまのいわれるように、移り変わる世の無常を受け入れ、いまの自分を見つめて精一杯生きていくことなのかもしれません。そして、残された者以上に亡き人は私たちのことを思っていてくれる。そばにいてくれる。そのことを信じて、与えられた時間を無駄にすることなく務めていかなければなりません。
秋には光になって 畑にふりそそぐ
冬はダイヤのように きらめく雪になる
朝は鳥になって あなたを目覚めさせる
夜は星になって あなたを見守る
『千の風になって』より
風のようにいつもそこにいて、私たちの心の闇を明るく照らしてくれるもの。それは愛する人です。亡き人とともに自らを輝かせる。そのような暮らしを営みたいものです。
武藤宗甫